三重県・伊賀の郷に「丸柱」がある。太古、この土地は琵琶湖の湖底だったと言われるだけに、ボーラス（多孔質）な生地で陶器に相応しい土が豊富に産出される。ここに天保年間より受け継がれた『伊賀焼の郷・長谷園』がある。 昨今の食生活は、豊かさの余り、ややもすると体に優しくなかったり、贅沢や偏った食生活から思わぬ障害を被ったりすることもある。また、われわれの回りに存在する食材には、それ自体に奥深い味が潜んでいるにも拘らず、派手な料理にかまけて、食材そのものの味が忘れられていることすらある。 長谷園が長年に亙り、創意工夫を重ねて完成した誠にすっきりしたデザインの「ふっくらさん」は、昔からお茶やぎんなん等を焙じたりしていた「焙烙」にヒントを得て、調理に有効な遠赤外線の効果をうまく取り入れ、食材の芯までしっかりと火が通り、ふっくら美味しく仕上がる。正に万能調理器と言わざるを得ない。いろいろな肉類や魚、野菜類の焼き物は勿論のこと、焼き芋、餅焼き、殻つき貝の蒸し焼き料理等、幅広く巧みに調理をしてくれる。 夏場は気化熱を応用して、器の内部を冷たく保ち、冷麺や刺身、サラダや果物を保冷し美味しく盛り付けることもできる。 形は誠にシンプルではあるが、これ程までに食材と巧くマッチングし、わたしたちに美味を育んでくれる調理器は珍しい。